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購買代理店という仕組みの絵画事業

田口 弘起業専業企業としてやっていくようになったのは今から約1年半ほど前のことです。それ以前に、エムアウトではじめた最初の仕事が絵画事業「@ギャラリー タグボート」でした。まあ絵が好きだったということがありましたからね。何にもわからないところからはじめて、絵画の世界の事情がわかるようになるまでは時間がかかりました。

今のギャラリーというのはすべからく、アーティストの描いた作品を売る販売代理店なんですね。供給側の論理でやっている商売なわけですよ。つまり、ほんとうに素人で絵を楽しみたい人のための購買代理店という仕組みはなかったわけですね。だったらそれをやってみようということではじめたんです。

僕はミスミ時代からアートのコレクションを16年近くやってきて、現在約300点ほど所蔵していますが、それほどよく買っていても、高く買わされたのがいっぱいあった。そうとう痛い目にもあってるわけです。

ウォーホール作品の標準価格を設定する

コレクションの中心になっているのが米国のコンテンポラリーアートですが、これは値段があってないような代物ですから。じゃあ、安心して買えるギャラリーを作ればいいんだということではじめたのです。

最初は、標準価格の設定というところからはじめました。たとえば、アンディー・ウォーホールのミック・ジャガーの絵の、過去のオークションのハンマープライス(落札価格)を調べて、それを全部データベース化したのです。そして、それをグラフで表して見せて、現在の適正価格はだいたいこの価格でしょうということを公開しているのです。

既存の画商ができないビジネスですなんですよ。画商からすると、結局1億円、2億円するユトリロを売るのも、100万円のリトグラフを売るのも、労力はそんなに変わらないんです。だったら、1億円、2億円を扱ったほうがずっと得なわけですよ。今はそういう方向へみんな行っている。

5,000円から2万円、3万円の美術品を開発する

田口 弘われわれのマーケットアウト・ビジネスでアートを扱うとなると、逆に細かい物がたくさんあったほうが付加価値を付けやすくなっていくことになるでしょうね。そこで100万円もするような高い物は扱わないようにしていこうと思うのです。実際に今一番売れてるのは10万円、20万円、30万円当たりなんです。もっと安い価格帯で、だいたい5,000円から2万円、3万円の間の商品を開発してくださいって言ってるんです。

従来のギャラリーはそんなことをやっても商売にはならない。1億円、2億円の作品扱って粗利で20%、30%を取っているわけですから合わないわけだよね。オークション会社だって、最低でも15%は取ってるんじゃないですか。それも売る側と買う側の両方からとっていますからね。それに品質の保証は全然していませんからね。そのためにプレビュー(内見会)を開いているんです。

絵画の値段を吊り下げるオークション

田口 弘オークションというものは供給側の論理でできているんですよ。値段を吊り上げる仕組みです。最終的には落札者に決めさせるようになっているけれども、ベースは会社がどんどん吊り上げていく。

オークションがはじまる前から吊り上げがはじまってますからね。「向こうの人がこれくらいの値段で買うでしょうから、この程度じゃたぶん落ちませんよ」というようなこと言って、「じゃあこれくらいまで上げてみましょう」と言っておいて、今度は向こうへ行って同じようにして吊り上げていく。最後はオークションのところでさらに吊り上げる。

こういう仕組みは、ほんとに絵を楽しみたい人にとっては困るわけです。だから吊り上げじゃなくて、吊り下げるシステムを作ってくれって言ってるわけですよ。インターネットに、たとえばさっきのミック・ジャガーの絵を300万円で出す。売れなかったらそれを下げていくというシステム。これこそがマーケットが値段を決める仕組みです。

マーケットの立場に立ったビジネス

宝石商は1回売ったジュエリーをもう一度活かすようにするということは、基本的にやってはいけないことになっているのです。だって、活かせば活かした分だけ新しい商品が売れなくなるっていうことになるからです。次から次へと新しいジュエリーを出して、買ったものを早く陳腐化させて、次から次へと買ってもらうという、これも供給側の論理で成り立っている。

そうすると何十万円、何百万円で買ったものが何年かすると、みんな古くなってしまうでしょ。それがご婦人の引き出しの中にゴロゴロしてるわけで、調べてみると最低でも30兆円以上あるだろうと。既存の宝石商はそれらを活かすビジネスに手をつけると新しい物が売れなくなる。ところが、われわれは最初から新品を売る必要がないので、宝石のリフォーム専門店を始めることができる。これもやはり、マーケットの立場に立たないとできないビジネスなんですね。

マーケットアウト・ビジネスを起業させていく

田口 弘世の中のビジネスは要するに供給者側の論理でほとんどができているわけですから、われわれ、起業専業企業としては、マーケットアウト・ビジネスをどんどん作っていこうと思っています。

それもあらゆる業界でやることはいっぱいあるわけです。とくに積極的に動いてるのは、医療といったような規制の厳しかった業界ですね。急激に変わる可能性があるし、なによりも変えなきゃいけないからです。あと教育産業は今、比較的興味を持って議論しているところです。

第3話:※こちらは2006/3/15の「ベンチャー座」で掲載させて頂いた記事です。