TOP > マネジャ・インタビュー > 起業家インタビュー 田口 弘

お金を稼ぐのではなく、お金を有効に使うこと

田口 弘僕は会社をはじめた頃からボーナスをうちに持って帰ったことがないんですよ。全部自分の会社の株に換えてたんですね。結果、会社が上場することで、まとまったお金を手に入れることができるようになったわけです。最初に資本金がたっぷりあって、当時のお金を使ってしまっていたらこうはなっていなかったでしょうね。ミスミは持ち株制をずっとやっていましたけれども、社員たちはみんな株で貰ってもしょうがないと嫌がっていたんですよ。でもあとになって株で貰っておけばよかったって言ってもね。

お金というものは、みんな稼ぐことばかりを考えているけれども、お金を稼ぐのではなくて、お金を有効に使うこと、今あるお金をいかに活かして使えるのかということを徹底的に考えていけば、結果としてそれを活かして使ったところに、またより大きくなって返ってくるというのが正直な実感ですね。

お金は活かして使える人のところへ集まっていく

とは言っても、お金をほんとうに活かして使うというのは、ひじょうに難しいことですね。だから、お金がたくさん入ってくるっていうのは、、それを活かして使える人のところへ集まっていくのが、基本的な原理なんだろうと思いますね。

だから、そうじゃない人のところへ急に入ってきたりすると、これ、人間がおかしくなってしまう。よくある話ですが、地域開発などの補償金で、それまで持ちなれないような人が一夜にしてすごい大金持ちになることがありますよね。ある知人はそういう人のところへ行ってクルマを売ってましてね。ところが売りつける先の人はまだ免許も取れてないんですよ。それでも売っちゃう。それで1年たつとまた行って、まだ免許を取れていないのに新しいのに変えましょうと平然と売りつける。接待攻勢で。銀座へ連れてって飲ませたりしているわけです。寄ってたかってむしり取ってしまう。結局、金がなくなった時には、本来の仕事も何もかも、人間すべてが完全にだめになってしまうらしいですよ。

お金の使い方の難しさがわかる

田口 弘今のベンチャー経営者を見ていると、みんな若くして成功して、早く金持ちになりたいって言いますよね。あとは楽して遊んで暮らしたいとか、投資でもやって優雅にいきたいとか、そういう人がひじょうに多いように思うんですね。でも、あまり若くして金持ちになることが、ほんとうにいいいことかどうか疑問ですね。

ミスミが上場して、僕が幾分お金持ちになったのは1994年ですからね。今から11年前です。57歳でした。なにも遅いからいいっていうわけじゃないんですよ。ただその年齢だったからこそ、お金の使い方の難しさがわかったということは事実です。

日本を活性化させるのは、やはり企業の力

田口 弘今もミスミの株を持っていまして、それを資金にして日本を活性化する、新しいビジネスをどんどん作っていこうということをやってるわけです。今期は赤字が出ますけれども、もっと積極的に投資をしていこうと思います。日本を活性化させる、元気にさせるのは、やはり、企業であると思っていますから。

さきほど稼ぐだけではだめだとは言いましたけれども、やはり稼ぐことによって生活が潤ってきて、その中でいろいろな物を見たり聞いたりしてインプットされたものが、また違った形になってマーケットに出て行くわけです。人が働き、新しいビジネスがどんどん生まれてくる、そういう流れができてくるわけですからね。

借りる側にたった論理のビジネス

本来起業を支援するはずのベンチャーキャピタル自体が、行き詰ってますからね。それに変わる起業を作る新しい産業を作らなきゃいけないという思いがありますね。

実際ベンチャーキャピタルの多くは金の貸し手の論理でできている。今の銀行もそうでしょ。中小企業のオヤジさんたちに言わせると、銀行っていうのは天気のいい日に傘貸してくれて、雨が降り出すと取り上げるようなもんだと。貸す側の論理なんですよ。銀行というものは、ほかの産業と一緒で、やはり物のない時代、金のない時代にできた職種ですからね。

だったら、借りる側の論理に変えたときにどうなるかを考えてみなければいけない。お客様のために有効に使うような、たとえば投資会社であったり。そこを考えていくと新しいビジネスが出てくる。それがわれわれの言う新しい社会の、次の時代のビジネスということですね。

ずっと遊んでろと言われても困ってしまう

新しいビジネスを作るのが好きなんでしょうね。つまり、われわれの世代は仕事そのものが趣味なんですよ。ところが若い人から見ればそれが不思議に思えるようですね、外資系企業の社長をやっている僕の甥がいるのだけれど、「叔父さん、それだけの資産があってどうして遊んで暮らさないの」って聞いてくるんです。「僕だったら船でも買って世界一周するけれどなあ。今もそういうつもりで働いていて、早くそうなるようにがんばっているんだ」と言うんです。でも僕はそんなことやってはいられませんよ。ずっと遊んでろって言われてもね、逆に困ってしまう。

田口 弘そんなに稼いで、また仕事かって言われるかもしれませんが、それ以外に自分がやりたいことで、お金を活かして使う方法が見つからないんですよ。でもわれわれの年代では普通のことですよね。でも、もし、このビジネスが成功してまたお金が入ってきたら、その時は田口アートコレクションでもやろうかなって言ってるんですけどね。(了)

第4話:※こちらは2006/3/22の「ベンチャー座」で掲載させて頂いた記事です。